身体と世界の交流: 認知症の人とのダンスによる新たな対話の形

ダンサーが認知症の人と踊る―。そう聞いてどんな光景を思い浮かべるだろう。苦労して振り付けを覚えさせることだろうか。レクリエーションの一種だろうか。それとも病気の進行予防に役立つ療法だろうか。
ダンサーで振付家の砂連尾理(じゃれお・おさむ)(59)がやっていることは、そのどれでもない。もしかすると見る者にとって、ダンスですらないかもしれない。
1月、マレーシア・ペナンのリゾートホテルで、老人介護施設の利用者とその家族を対象に「とつとつダンス」のワークショップが開かれていた。
簡単なストレッチから始まるそれは、ちょっと変わったエクササイズのようだ。2人一組の手のひらのマッサージ。手と手が触れないように「握手」する。ティッシュペーパーを腕に載せて隣の人に渡していく。膝と膝を合わせ、相手の動きについていく…。
認知症の高齢者とその家族、介護者の間に笑いがもれ、和やかな空気が流れる。それだけだと実に平和な光景だった。

あなたは誰?
砂連尾が一人の認知症の女性に近づき、ティッシュペーパーを頭に載せたことで空気が変わった。自分の頭を女性の頭にくっつける。耳を触り、手を引っ張る。そして膝に乗る。女性は顔を背けて身を引き、嫌だ嫌だと抵抗する。「あなたは誰? なんでそんなに近づくの?」。やりとりは4、5分も続いただろうか。
相手の嫌がることをするのは、認知症ケアにおける禁じ手だという。だが「嫌がられることも、一つの入り口だと思うんです」と砂連尾は言う。入り口? 何の?
とつとつダンスは2009年、京都府舞鶴市の特別養護老人ホーム「グレイスヴィルまいづる」で始まった。主に認知症の高齢者とダンス作品をつくるというプロジェクト。ワークショップでお年寄りに「とつとつ」と近づいていくうちに、理解し合えないはずの相手と、確かに「一緒にいる」という感覚を抱くようになった。
